
近年、「腸活」が話題となっています。「○○は腸に良い!」や「○○は腸に危険!」といった様々な情報が飛び交っており、正直どの情報が正しいのか分からない!という人もいるのではないでしょうか。アスリートの間でも腸活やグルテンフリーを実践する人が増えていますが、正しい腸活を実践しなければ、逆にパフォーマンスの低下を招いてしまうこともあり得ます。今回は、東京科学大学で腸内細菌の研究をされている千葉のどかさんに、腸内細菌の魅力やアスリートに役立つ科学的にベストな腸活方法について解説していただきました。
こんな人に読んでほしい!
✔ パフォーマンスを上げる食事を知りたい人
✔ 腸活やグルテンフリーの実践を考えている人
✔腸内細菌の基礎知識から知りたい方:前から順に読んでください。
✔各論が知りたい方:3.以降から読んでください。
✔重要なところだけ知りたい方や、よりわかりやすい部分のみ読みたい方:各章のまとめを読んでください。
腸活は、おなかの中に強いチームを作ることと同じ
この記事では、腸内細菌研究者としての知識をお伝えしつつ、もはや腸内細菌の魅力を知る「腸内細菌オタク」としてその大事さを伝えたいと思います!
さっそくですが、「腸活」といえばどんなことを思い浮かべますか?「発酵食品を食べるとよい」などと聞いたことがあるかもしれません。「腸活」は、腸(おなか)によい食べ物を食べる活動として知られていますが、そもそもなぜ腸をよくする必要があるのでしょうか?
「腸活」の本題に入る前に、一旦食事と体づくりの関係を考えてみましょう。これを読んでいるみなさんには、今頑張っているスポーツがあると思います。もしくは、そんなスポーツマンを支える立場にあると思います。
スポーツでよいパフォーマンスを発揮する強い体を作るためには、適切なトレーニングが大事です。しかし、トレーニングと同じくらい重要なのが「食事」です。なぜなら筋肉も、皮膚も、体のパワーも、考えるパワーも、すべては食べ物(の中に含まれる栄養素)からできているからです。
もしも体が必要とする栄養素を適切に摂取し、吸収できなければ、どれだけ厳しい練習を積んでも最大限のパフォーマンスを発揮することはできないということになってしまいます。だから食事は体づくりに重要なのです。
では、体が必要とする栄養素をしっかり摂り、それをしっかり吸収できればよさそうですが、なぜ腸を制することが大事なのでしょうか?
腸のはたらき:栄養素の吸収は腸でされる
体が必要とする栄養素をしっかり摂り、吸収するためには腸を制することが大事、と前の文に書きました。
そもそもヒトが食べたものは「まずは胃で消化吸収される」と習ったことがある人も多いと思います。ですが、実は胃のあとの腸でも栄養素は吸収されています。
健康な腸は栄養素をコスパよく吸収し、強い体づくりに活かすことができます。そのため、腸の健康を意識した食生活を送ることが、アスリートにとっても重要になるのです!
腸というフィールドでプレイする選手「腸内細菌」のはたらきとは?
食べたものを消化・吸収するためにとっても大事なはたらきをする腸ですが、実はその腸に住み着いている小さい生き物がいます。この生き物も大事です。その名は腸内細菌といいます。
「細菌」と聞くと汚いイメージもありますが、腸内細菌研究者(オタク)としてはこの細菌たちのすごい働きをみなさんにぜひ知ってほしいです…!アスリートの皆さんに馴染みやすいよう、スポーツで例えていこうと思います。
腸内細菌は、腸というフィールドでプレイする選手のようなものです。まず、選手(腸内細菌)の数ですが、成人男性だとだいたい40兆ほどいます。腸内細菌の種類は人それぞれかなり違っていて、それぞれの腸内細菌の種類の割合もバラバラです。
腸内細菌は種類が違うとはたらきも違うので、ちょうどおなかのなかにバスケットボールチームがいるようなイメージです。
強いチームは、ディフェンスやオフェンスなど、各選手がそれぞれの強みをもっていてそれらが調和するのでチームとして良いプレイができますよね。
腸内細菌も同じように、いろいろな強み(はたらき)をもつ細菌が調和することで全体としてよいはたらき(消化吸収)ができるのです。
そんな腸内細菌ですが、私たちが食べたもののうち、腸に届いた栄養素の一部をエサにしています。各腸内細菌が好むエサはそれぞれです。エサがもらえない腸内細菌は弱くなるか死んでいきます。
つまり、いろんな栄養素が来ない腸では特定の種類の腸内細菌だけが増えてくるので、ディフェンス選手だけがいるようなバランスの悪いチーム(腸内環境)になってしまうのです。
まとめ1:腸活が重要な理由
ここまで読めば、もしかしたら腸活が大事な理由や有効な腸活を予想できてくるかもしれません。
そう、腸内細菌の働きを最大限に活かすためには、いろいろな栄養素を摂って、いろいろな腸内細菌を元気にすることが大事です。
アスリートの方が目指すべき「究極の腸活」とは、腸内細菌のバランスを保ち、良い働きをする細菌を増やすための食事や生活習慣を取り入れることなのです!


アスリートに腸活は必要か?
アスリートが高いパフォーマンスを発揮するためには、適切なトレーニングとともに、効率的に栄養素を吸収し、強い体を作ることが重要です。
そのためには、いろいろな腸内細菌を元気にし、腸内環境を整える「腸活」が有効とされています。では具体的に、腸活をするとアスリートのどんなパフォーマンスが上がるのでしょうか?
最新の研究:持久力を上げる腸内細菌!?
2023年、箱根駅伝で有名な青山学院大学陸上競技部の選手の腸内細菌を調べた研究結果が発表されました。
その研究では、3000mのタイムが速い選手の多くが共通して持っている腸内細菌が見つかりました。
また、その菌がおなかの中に多ければ多いほどタイムが速いということもわかりました。ある細菌の名前は「Bacteroides uniformis(ばくてろいです ゆにふぉーみす)」といいます。(参考、PR)。
では、この腸内細菌を増やせば持久力が上がるのでは?と思う方もいると思います。Bacteroides uniformisを増やす食事についても研究がなされています。
その一つが小麦ふすま(ブラン)です。小麦ふすまは小麦の外側の部分で、最近では小麦ふすまを使ったシリアルも売られています。小麦ふすまのみでも市販で取り扱いがありますので、例えば小麦粉の代わりとして料理に使うこともおすすめです。
腸内細菌がどうやって運動パフォーマンスをあげるの?(詳細)
先程のBacteroides uniformis がどのように持久走のタイムを上げるのか、その細かいメカニズムが気になる人は、少々複雑にはなりますが図を見ながらこの章を読んでください。
小麦ふすまやアラビノキシランオリゴ糖を摂取することで、腸内で酪酸というおなかによい物質をつくる細菌が増え、酪酸の生成が促進されることが報告されています。
酪酸は腸内環境を整えるだけでなく、エネルギー源としても重要な役割を果たします。したがって、小麦ふすまを取り入れた食事は、腸内細菌を介してアスリートのパフォーマンス向上に寄与する可能性があるといえるのです。


図:Bacteroides uniformisと小麦ふすまが運動パフォーマンスを上げるメカニズム
まとめ2:アスリートにもバランスの良い食事による腸活がおすすめ
最近の研究を参照しながら、Bacteroides uniformist という運動パフォーマンスを上げることに関わっている腸内細菌やそのメカニズムをご紹介しました。
とはいえ1章でお伝えしたように、いろいろな腸内細菌がおなかの中にいることがまずは重要です。その上でBacteroides uniformisのような有用な菌を増やすことが大事であることは忘れないでくださいね!
腸内細菌研究者が考えるベストな腸活方法とは?
では、アスリートの腸内環境を整えるためにはどのような腸活や食事がベストなのでしょうか。
腸内細菌の研究の世界では、一人ひとりの腸内環境に適した食事を摂ることが理想的であるという考え方が広まりつつあります。
しかし、腸内環境は人それぞれであるので、一人ひとりの腸内環境に適した食事を提案するためには腸内細菌の詳細な検査が必要です。とはいえ現時点では検査に大きな費用や時間がかかるため残念ながら現実的な策ではありません…。
科学的根拠を十分にもたせた食事の基準や商品、サービスが今後出てくることに期待、という状態です。
それでも、よい食事を摂って腸内環境を整えることが健康につながるということは多くの研究によって言われています。
腸内細菌のバランスが崩れると、炎症性腸疾患やメタボリックシンドローム、さらには精神疾患とも関連があることが報告されていますし、腸内細菌が作る物質の一つの短鎖脂肪酸は、腸のバリア機能を強化し、免疫機能の調節にも関与することがわかっています(参考1, 参考2)。これらの知見からも、腸内環境を適切に保つことは健康維持のために重要です。
以上を踏まえて現時点で科学的な視点で言えるベストな腸活の方法は、「栄養バランスの取れた食事を摂ること」です。単一の食品だけに偏らず、多様な食材を摂取することがいろいろな腸内細菌を元気にすることに役立ちます。
また、アスリートなど運動量の多い人はそうでない人と比べて通常の食事だけでは特定の栄養素が不足しがちです。特に鉄やカルシウム、ビタミンDなどは、運動によって消費が増えるため、不足しないように注意が必要です。
これらの栄養素は食品からの摂取が理想ですが、十分に補えない場合はサプリメントを活用するのもよい手段です。ただし、過剰摂取はかえって健康を損なう可能性があるため、適切な量を意識することが重要と考えられます。
まとめ3:「○○だけを食べる」は避けるべき
結論として、現時点でのベストな腸活方法は、「多様な食品をバランスよく摂取すること」です。
個人の腸内細菌に完全に最適化された食事はまだ実現が難しいですが、多品目をバランスよく摂り、不足しがちな栄養素を適宜補うことがよさそうです。
反対に、「〇〇を食べるのは避けるべき!」なども現在の腸内細菌研究で根拠はありません。健康な人において、例えば「豆腐やトマト、ナス、カボチャなどは腸に危険な食品!」などと示した論文は私が探した限りはありません。
健康なアスリートにグルテンフリーは必要か?
健康法のひとつとしてグルテンフリーが気になる人もいるのではないでしょうか。そもそもグルテンとは、小麦、大麦、ライ麦などに含まれるタンパク質の一種であり、生地の弾力を生む重要な成分です。
しかし、このグルテンを食べると不調になる人がいます。よく知られているのはセリアック病という疾患をもつ人です。セリアック病患者は、遺伝的にグルテンを分解できないため、グルテンを摂取すると腹痛などの不調をはじめ、精神面などにも症状が出ることが知られています(参考)。
セリアック病ではないものの、グルテンを摂取すると消化器症状や倦怠感を訴える人もおり、過敏性腸症候群(IBS)との関連も指摘されています(参考)。
こうした背景から、グルテンフリーの食事が健康に良いと考える人が増え、アスリートの間でもパフォーマンス向上を目的にグルテンフリーを取り入れる動きが見られます。
しかし、本当に健康なアスリートにとってグルテンフリーは必要なのでしょうか?
最近の研究では、グルテンを分解できる腸内細菌の存在が明らかになっています(参考)。
具体的には、一部の腸内細菌がグルテンを分解し、人体に悪影響を及ぼさない形に変換することができると考えられています。
つまり、これらの細菌を十分に持つ人は、グルテンを摂取しても問題がない可能性があり、無理にグルテンフリーを実践する必要はないかもしれません。
さらに、グルテンの摂取に問題がない人がグルテンフリーの食事を続けると、腸内環境が変化したと報告した研究もあります(参考)。
小麦を含む食品には、プレバイオティクス(腸内細菌のエサとなる成分)が含まれており、これらを摂取しないことで腸内細菌のバランスが崩れ、逆に消化機能が低下するリスクがあるとも言えそうですし、小麦製品を排除することで、食事のバランスが偏りやすくなり、エネルギー源やビタミン・ミネラルの摂取不足につながる可能性もあります。
では、アスリートがグルテンフリーを取り入れるべきなのはどのような場合でしょうか?まず、セリアック病と診断された場合は、意思の指導の元でグルテンフリーの食生活が必要です。また、グルテンを摂取すると消化不良や体調不良を感じる場合は、一度医療機関で検査を受け、自分の腸内環境に適した食事を考えることが望ましいでしょう。
しかし、特に問題を感じていない健康なアスリートがグルテンフリーを行うことで、パフォーマンス向上につながる科学的な証拠は現時点では不十分です。
まとめ4:グルテンで不調が出るなら病院へ。不調が出ないなら避けなくて良い。
結論として、健康なアスリートにとって、グルテンフリーの食事は必ずしも必要ではありません。
むしろ、適切な小麦製品の摂取は腸内環境を整える助けとなる可能性があり、不必要なグルテンフリーは栄養バランスを崩すリスクがあると言えます。科学的根拠に基づいた食生活を心がけ、自分の体に合った最適な栄養戦略を選ぶことが重要です。
腸にとって危険な食品はなにか
腸の健康を維持するためには、どのような食品が腸に悪影響を与えるのかを理解することが重要です。
みなさんも想像がつくように、アルコールや過剰な油を含む食品は腸に負担をかけるとされています。ジャンクフードや揚げ物などの油の多い食品は、腸内細菌のバランスを乱し、腸内環境の悪化を引き起こす可能性があります。
また、アルコールは腸粘膜を傷つけ、腸のバリア機能を低下させることが知られています。
しかし、一度これらの食品を摂取したからといって、すぐに腸が深刻なダメージを受けるわけではありません。
健康な人の腸にはある程度の回復力があり、継続的に健康的な食生活を送ることで、ダメージを修復する機能も備わっています。
そのため、短期間の食習慣だけで腸が「壊れる」ことは考えにくく、あまり神経質になりすぎる必要はないと考えます。
一方で、食事は単なる栄養摂取だけでなく、心理的な影響も大きく関与します。
例えば、ジャンクフードを食べた際に「腸に悪いから体調を崩すのではないか」と強く意識すると、そのストレスが腸の働きに悪影響を及ぼす可能性があります。
「この食事を楽しもう」とリラックスした状態で食べることで、消化・吸収が促されると考えられます。食事と心と身体の栄養を包括的に報告した研究はないため、この章は腸内細菌と健康について研究してきた私の見解です。
まとめ5:おなかの中によい腸内細菌チームを作るには
前にも書きましたが、腸に悪い習慣は、特定の食品ばかりを摂り続けることです。
いろいろな腸内細菌がバランスよくおなかの中に存在し、はたらくことが健康維持の鍵であり、アスリートがよいパフォーマンスを発揮する基盤となります。
偏った食事で腸内環境を乱さないようにしましょう。極端なダイエットや単一の食品に依存した食生活も避けるべきでしょう。
結論・まとめ
まずは腸内細菌と心に負担をかけない食事が重要です。「〇〇を食べると良い!」と聞いて、それだけを食べ続けることは栄養バランスの乱れを引き起こしますので控えましょう。
そして食事の時間があなたの腸内環境と心によい影響を与えるためには、なるべく多品目を、リラックスした状態で食べることを心がけてみるのがよさそうです。
この記事がアスリートのみなさんの目標を食から叶えるヒントになりますように!
著者紹介


千葉のどか
- 東京科学大学(旧東京工業大学)生命理工学院 博士後期課程3年
- 2025年3月に博士号(理学)を取得見込み
- 大学院と医薬基盤・健康・栄養研究所での研究経験を活かして、腸内細菌を考慮した食事のデザインを目指している。